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【Column】いまの時代に生きる若者への痛烈なメッセージ…『彼女が好きなものは』(2021)

映画『彼女が好きなものは』は、浅原ナオトによる小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』を原作としている。ゲイの男子高校生の目線から、周囲と違うことへの恐怖や同性愛者であることへの葛藤などを真摯に描き切った秀作だ。

 

 

『彼女が好きなものは』あらすじ

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高校生の安藤純(神尾楓珠)は、自分がゲイであることを隠しているが、年上の恋人・誠(今井翼)と密かに関係を持っている。幼馴染の亮平(前田旺志郎)やシングルマザーの母・みづき(山口紗弥加)もそのことは知らない。周囲に合わせることで身を守り、平穏な学生生活を送るため、誰とも一定の距離を保っていた。あるとき純は、クラスメイトで美術部員の三浦紗枝(山田杏奈)が、男性同士の恋愛を描いたいわゆるBLマンガを買っているところに遭遇。中学時代に‘‘腐女子’’がバレて仲間はずれにされた経験を持つ紗枝は、学校ではBL好きを隠しており、「誰にも⾔わないで!」と純に口止めするのだった。 ところが秘密を共有したことで二人は急接近し、いつしか純に恋愛感情を抱くようになった紗枝は、その思いを告げる。ゲイである自分ももしかしたら‘‘ふつう’’に女性とつき合い、‘‘ふつう’’の人生を歩めるのではないか・・・。一縷の望みをかけ、純は紗枝の告白を受け入れるのだった・・・。 

 

‘‘当たり前の幸せ’’を求める苦悩とゲイとして生きる葛藤

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ゲイであることを隠して生きてきた男子高校生を主人公に、当たり前の"幸せ"を求める苦悩、同性愛者であること、そして周囲と違うことへの葛藤が丁寧に描かれた秀作。

日本では未だLGBTQコミュニティへの理解という点では未発達な部分が大きい。
さも理解しているつもりでも、いざ目の前に同性愛者やトランスジェンダーが現れたら、混乱してしまう人間は数多くいると思う。
もしも、学校や職場、それも同じクラスや同じ部署に「自分はゲイです」という人間がいたとしたら、一体どういう反応をとるだろうか?
そんなことを考えさせられるのが本作である。
本作の主人公は高校という閉鎖的環境下、それも独立した小さな社会の中で、自らがゲイであるということを知られてしまう。
それにより、噂は瞬く間に拡散し、生きていくことでさえ苦しいと思ってしまうのだ。
学生と呼ばれるうちは、人間としてまだまた未熟者だ。
したがって、"同じクラス"の数十人の人間たちは、みな同じような人間であることが求められる。
自分が好きなものは他人も好き。他人が嫌いなものは自分も嫌い。
周囲と違う個性を放つ人間はコミュニティから追放されてしまう。そんなものだ。
いま、日本ではいじめによる自殺などが急増している。
もう何年も前から減少する兆しが見えないというのが実際のところだ。
世の中には悩みを抱えた人間はたくさんいる。周りと違ったって良いじゃないかと考えるのは難しいことだ。


 

 

本作は、ゲイの男子高校生を主人公に据えることで、その苦悩や葛藤を見事なまでに描き出し、どれだけ自分を受け入れることが困難であるかを、感情表現豊かに映し出している。
まさに、いまの時代に相応しい一本だと言えるだろう。

そんな傍目から見たら重苦しい雰囲気のテーマを扱っているように思いがちだが、本作はれっきとした青春ドラマとしても機能している。
どこか甘酸っぱい青春の輝き、大人にならなければならない年頃の憂鬱、"当たり前の幸せ"を求めることへの苦しみ…これらをバランスよく調和させ、重厚なドラマを作り上げている印象を受ける。
ゲイの男子高校生の目線から、人生とは不平等なものであり、生きるということは尊いものであると同時に苦しいことであるということを伝え、周りの友人や家族、はては行動を共にするコミュニティの人間たちが、いかに支え合うべきか、そして理解すべきかということを丁寧に大胆に伝えている作品だった。

主演の神尾楓珠と山田杏奈の演技も素晴らしく、対照的な演技を魅せる二人であるが、感情を共有したケミストリーが生み出されている。
主人公の幼なじみ役を演じる前田旺志郎もまた良かった!(文・構成:zash)

 

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