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【Column】上田慎一郎がまたやった!唯一無二のエンターテイメント『ポプラン』(2022)

映画『ポプラン』は、あの社会現象を巻き起こした傑作『カメラを止めるな!』(2018)の上田慎一郎監督による待望の最新作。構想に10年を費やしたとされる意欲作だ!

 

 

『ポプラン』あらすじ

popran.jp

 

映画『ポプラン』のストーリーは、漫画の配信事業で成功を収めた経営者の田上(皆川暢二)を主人公に展開される。
ある日、東京の上空を高速で移動する黒い影がワイドショーで取り上げられ、「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されていた。
ある朝、目覚めると、田上は仰天する。
下半身の‘‘アレ’’が失くなっていたのだ。
どうしたら良いのか全く分からない田上はひょんなことから「ポプランの会」なる集会に行き着く。
そこでは‘‘アレ’’を失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。
「時速200キロで飛びまわる」、「6日以内に捕まえねば元に戻らない」、「居場所は自分自身が知っている」。
田上は、疎遠だった友人や家族のもとを訪ね始める。
家出した‘‘アレ’’を探す旅が、こうしてはじまるのだった・・・。

 

上田節炸裂の痛快エンターテイメント!

www.youtube.com

 

カメラを止めるな!』の上田慎一郎が構想に10年を費やし製作した斬新なロードムービー

もしも、ある朝起きたら、"アレ"がなくなっていたら。
男性諸君はどのような行動に出るだろうか?
"アレ"とはいわゆる下半身にある"アレ"のことだが、劇中では"ポプラン"と呼称されているため、そう呼ばせていただく。
本作は自分のポプランが逃げ出してしまったことから、ポプランを追い求めて、自らの"過去"を探求する旅へと出発する男の姿を描いている。
あらすじを聞いた限りでは、非常にバカバカしく幼稚な作品であるかのような印象を与えるかもしれないが、決してそんなことはない。
むしろ、ここ数年の日本映画の中でもトップクラスにメッセージ性の強い作品だったと言っても過言でないのだ。
家族や友人を捨ててまで成功を手にした男が、自らのポプランを失ったことで、捨ててきたものの大切さ、自分は一体誰なのかということを思い出し、本当の自分と向き合っていく姿が小気味よく映し出されている。
そんな世に生きるすべての人類に伝えたい強いメッセージを、とてつもなく変態的かつ笑いを込めて描き切る部分は、さすがの上田慎一郎と言えるだろう。
どこか皮肉めいた描写、名作SFへのオマージュ、時間の経過をハッキリさせる演出、劇中のルール設定などなど、観る者を楽しませるために細部まで作り込まれた構造は上田節炸裂!
その映像作家としての才能には毎回驚かされるばかりだ。

 

 

水を得た魚の如く生き生きとした表情を魅せる、皆川暢二

キャストの演技もまた素晴らしい!
主演の皆川暢二はまさに水を得た魚の如く生き生きとした表情を終始魅せ、恥ずかしさなど微塵も感じさせないほどに役に入り込んでいる印象だ。
全裸で駆け回る彼の気概には大きな拍手を送りたい。
そんな彼の両親役で出演する原日出子渡辺裕之もまた面白い存在感を発揮する。
ポプランを血眼で探す息子とは対照的に落ち着いた雰囲気を醸し出す彼らに何故か安心感を覚えてしまう。
それは原日出子の抱擁力のある演技と渡辺裕之の頑固オヤジ的な寡黙さがそうさせているのだと思う。
海辺の町の時間がゆっくりと流れる"あの感じ"を体現した存在感を2人には感じた次第である。
そのほかにも実力派の俳優たちが個性豊かなキャラクター性を発揮しており、ここにも上田慎一郎作品らしさを大いに感じさせる。

 

もしもポプランを失ってしまったら?なんてことは絶対に考えたくはないが、そんな現実がやってきてしまったら、恐らくは主人公と同じような行動を取るだろう。
そういった点でも、ある意味で相当リアルな作品である・・・。
自分らしくない行いばかりをしていると、もしかしたらポプランが逃げ出してしまうかもしれない。気をつけた方が良さそうだ。(文・構成:zash)